1型糖尿病はグルテンと関係あるか?

彼は、Nくんと言った。
Nくんはもう二十歳を超えていたが、
小学生のころから通院しているせいか、
熟練の看護師さんたちからはいまだに子供のような扱いだ。

彼のトレードマークは分厚い眼鏡だ。

トレードマークは不本意かもしれない。
いわゆる牛乳の瓶底レンズの黒縁メガネ。

Nくんはよく倒れて運ばれてきた。

原因は血糖だ。

時には血糖値40の超低値。

時には血糖値400の超高値。

インスリンを一日4回打っているんだけど、
なかなか血糖値が安定しない。

ごはんがあまり食べられないときに、
うっかり、たくさん打ってしまったりもする。
すると低血糖になる。

自分で血糖を測りながらコントロールするのだが、
うまくいかないことも多い。

ぼくが最初にあった時は、
結構元気そうだった。

上背が結構あって177cm。

それが次に会ったときは、
ストレッチャーで入院するところだった。

低血糖で倒れたのだという。

このがたいのいい青年が倒れたとなると、
運ぶほうも大変だったろうな。
なんて思いながら見送った。

あまりにコントロールが難しいので、
研修医のぼくには担当は回ってこなかった。

1型糖尿病とは?

1型糖尿病とは、超高血糖で見つかる病気だ。
なんか吐き続けているんですけど、とか。
意識がないんです、とか。

子どものうちにかかることが多い。

血糖は文字通り、血液中の糖、正確にはぶどう糖だ。

血糖は食事をすると上昇する。
血糖を細胞に取り込ませて、
血糖を下げるのがインスリンだ。

インスリンは膵臓から血中に出される、
内分泌ホルモンだ。
血糖を下げるホルモンはインスリンだけ。

1型糖尿病の人は、
膵臓にあるインスリンを作る細胞を壊す抗体ができている。

その自分の細胞を攻撃してしまう抗体、
自己抗体で膵臓のインスリン産生細胞が壊れてしまう。

そして、インスリンが作られなくなり、
血糖が上がっても下げる機能がない状態になる。

そうすると高血糖になる。

高血糖になると、
吐き気が出てくる。
最悪、意識を失う。

そこまで高血糖でなくても、
高めの状態が続くと、
血管がぼろぼろになり、
神経、網膜、腎臓に異常が出てくる。

Nくんが瓶底メガネをしていたのも、
糖尿病による網膜の異常で、
視力が悪くなっていたからだ。

それと、コンタクトレンズができない。
意識を失って倒れた時に、
コンタクトレンズが外せないからだ。

1型糖尿病の原因は?治るの?

原因はわからない。

関係のある遺伝子はいくつかわかっているが、
どうしたら回避できるかはわからない。

予防する方法はわかっていない。

そして、残念ながらいまのところ治らない。

インスリンを分泌する細胞を復活させるとか、
移植するとか、いろいろ研究が進んているところだ。

ただ、まだ時間がかかりそう。

対処の方法はある。

インスリンを注射することだ。

ものすごい細くて痛くない加工がしてある針なので、
ほとんど刺した感じがしない注射だ。

通常は一日4回注射する。

1回は一日中ずっとゆっくり効き続ける持効型インスリン。
3回は食事の前に打って、食後に血糖が上がったときに、
効く超速効型インスリン。

これが膵臓からのインスリン分泌を似せた注射の打ち方なのだが、
食事量や体調とインスリンの量が合わないと、
高血糖になったり、低血糖になったりする。

これがNくんのように激しく起こると、
倒れて運ばれることにもなる。

インスリンポンプ療法といって、
ずっと少しずつインスリンを皮下に入れていき、
食事の時だけ多く投与する、
何度も針を刺さなくてもいい方法もある。

1型糖尿病とグルテンの関係は?

グルテン敏感性もグルテンへの抗体が、
自分の体も攻撃する自己免疫異常。

グルテン敏感性のうち、
自己抗体が特定されているものがセリアック病だ。

大規模な調査で、
遺伝子検査で1型糖尿病とセリアック病の両方に、
なりやすい遺伝子型である子どもを調査したところ、

セリアック病の抗体陽性者で、1型糖尿病の抗体陽性者は約10%
1型糖尿病の抗体陽性者で、セリアック病の抗体陽性者は約20%

という結果だった。

Co-occurrence of Type 1 Diabetes and Celiac Disease Autoimmunity

つまり、1型糖尿病の患者さんでは、
10人に2人はセリアック病の可能性があり、
グルテン敏感性に至っては、もっといる可能性がある。

調査対象が、もともと危険性のある遺伝子型を持つ人だからかも。

それでも1型糖尿病の人は、
グルテン敏感性かどうかも、
確認しておくほうがいいだろう。

グルテン敏感性が遺伝子検査でわかったなら、
グルテンを避けてみるのもいいのではないか。

グルテンが含まれる穀物は、
糖質の供給源でもある。

インスリンが分泌できずに、
血糖値がコントロールできないなら、
血糖値をあげないタンパク質や脂質を増やすのも、
一つの手だろう。

特にグルテン敏感性で腸がダメージを受けていて、
自己抗体ができているようならなおさらだ。

Nくんを外来や病棟で見かけた時は、
まだグルテン敏感性を知らなかった。

あのころは遺伝子検査も簡単にはできなかった。

いまどうしているだろうか。
元気にしてるかな?